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{オリジナルBL小説・盗賊と王子}一部有料

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以下本分です。

 

 

盗賊と王子」

1・ある夜のことだった。空にはうっすら靄がかっており、月が霞んで見える。そんな中で太い悲鳴が響き渡った。中年の男が土下座をしている。彼の腕からは血がだらだらと流れ落ちていた。傍らにはずた袋が落ちている。

「ひいい、命だけは!頼む!見逃してくれ!」

「物を全部置いてとっとと失せろ!」

「ひいいい」

男が慌てたように逃げ出していく。

「ちっ。覚悟もねえくせに中途半端に盗人の真似事なんざしやがって」

白い髪に褐色の肌の青年。彼には名前がなかった。気が付いた時にはすでに自分は盗みを働いて生きていた。自分は生まれながらにして盗賊なのだと自分を嗤うようになったのはいつのことだったろうか。盗賊は男の置いていった袋に手をかけた。正直に言って、中身にはあまり期待していなかった。だが一応検分はする。

「お」

中から真っ赤な大きい宝石が出て来て、盗賊は思わず声を上げていた。この城にはまだ他にもお宝が眠っている可能性が出て来た。盗賊はめぼしいものだけを袋に残してあとは全て捨てた。必要なのは金だ。生きるためには、いや、自分の目的のためには、とにかく金が要る。自分の大事なものを守るため、王国を築く。それが幼い頃からの盗賊の夢だった。莫迦みたいだと他人から嗤われてもよかった。自分は今までずっと一人で孤独だった。親からの愛情など受けたこともない。ただ生きるために人から物を盗み、なんとか今まで生きて来た。盗みが上手く行かずに暴力を一方的に受けることもあった。だがそれでも盗賊はなんとか生きている。そう、自分は死なない。自分の王国を築くまでは。

「もうこの国も駄目だな」

盗賊がそう呟いても誰も返事などしてくれない。ただ冷たい風が吹いただけだ。盗賊は城の中に足を踏み入れた。外から見ても明らかに荒れ果てていたが、城内は更に荒廃としている。盗賊は慎重に辺りを探りながら進んだ。滅びそうになっている国の建造物を、こうして巡って宝探しをするようになったのは、つい最近の話だ。今は西暦2555年、地球にもともとあった自然環境は人間の手によって完全に破壊され、ひどかった自然災害は更に激化した。唯一、人間が住めるような場所には貧しい者が大勢集まり、身を寄せ合って暮らしている。そんな中で流行り病が蔓延し、更に彼らを襲った。地球の最期は確実に迫ってきている。みながそれを恐れている。一部の富裕層はとっくに地球から離れた宇宙にある安全なコロニーでぬくぬくと暮らしている。コロニーで暮らしたいとみなが思っている中、一人、盗賊だけは違った。今なら容易くこの星を掌握できる。そう思ったのだ。確かに今、この星は形だけになっている。だが、また生き返らせるための方法を盗賊はずっと探っていた。そのためにはとにかく金が要る。だからこそ、こうして金目の物を集めているのだ。これは子どもの頃からずっと続けていることだ。盗賊は本気だった。城の中は真っ暗だが、盗賊は愛用のペンライトで辺りを照らしながら地下通路を探しに向かった。宝が地下に隠されているのはそう珍しい話ではない。盗賊はしばらく城内を探って地下に繋がる階段を見つけていた。慎重にその階段を降りる。

「誰?」

か細い声に盗賊は驚いた。だがすぐ冷静さを取り戻し、ナイフを手に持って構える。

「お前こそ誰だ?」

先程の男の仲間だろうか。だとしたらここで殺しておいた方がいいかもしれないと、盗賊はすぐに判断した。自分がこうして生きていられるのは他人に対して非情だったからだと盗賊は思っている。実際そうなのだ。人を信じることなど盗賊にはあり得ない話だ。盗賊は声がした方をペンライトで照らした。それに相手は驚いたらしい。小さく悲鳴をあげた。

「あ、ぼ、僕は」

盗賊は驚いていた。彼はまだ少年というべき年齢だった。左目には深い傷が入り、見えていないのだとすぐ分かる。赤茶のくせ毛が鳥の巣のようだ。

「僕を殺しに来たんですか?兵士さん?」

「お前、本当に誰だよ・・・」

「え?」

脱力して盗賊は彼を無視することにした。自分は宝を探しに来たのだ。こんな子供を相手にしている時間すら惜しい。盗賊は辺りを探った。地下にあるとはいっても簡単に盗まれないよう、宝は隠されていることが多い。そのための仕掛けを探る必要がある。

「あ、あの」

少年がおずおずと話しかけてくるが、盗賊は無視した。だが少年に諦める気はないらしい。

「あの!」

盗賊の耳が少年の大声できいんっとする。

「耳元で叫ぶな!」

「あ、ごめんなさい。でも」

盗賊は不思議だった。大抵の人間は自分を見ると恐れるのに、彼にそんな様子はない。変な奴と出会ってしまったと盗賊はなんだか気まずい。

「お前はなんなんだ?俺の邪魔をするなら殺すぞ」

「こ、殺されるのは嫌です。でも僕、どこに宝があるか知ってます」

「はあ?」

盗賊はまじまじと少年を見つめていた、にわかに信じがたい話である。だが、もしそれが本当なら利用しない手はない。

「どこにあるか言え」

「嫌です」

「いい加減にしないと殺すぞ」

少年は笑った。盗賊はまたも驚く。自分を相手にして怖くないのかと。

「僕が死んだら宝がどこにあるか絶対に分かりませんよ」

「くそ」

盗賊は舌打ちをしてナイフを収めた。この少年の手のひらの上で上手に転がされてしまっている気がする。盗賊は両手を上げた。

「約束する。お前を殺さない。だから」

盗賊は自分で驚いていた。まさか自分が誰かの手を借りることになるとは。少年が足元を探り出す。盗賊は彼の足元をペンライトで照らしてやった。

「あ、ありがとうございます」

少年がぐっと、ある石畳を押す。するとゴゴゴと地響きが起きた。そこにあったのは更に地下に繋がる階段だ。盗賊は驚いて言葉が出なかった。確かに自分一人では分からなかっただろう。彼の言葉は真実だったようだ。

「行きましょうか」

少年が笑う。盗賊は頷いた。暗い階段をペンライトのわずかな光で降りていく。蜘蛛の巣があちこちに張っていることから長い間、人が出入りしていないことが分かる。盗賊は高揚感を覚えていた。これなら宝も期待できると思ったからだ。盗賊たちが階段を降りると、パッと明かりが点いた。そこにあったのは大きな宝箱だ。盗賊はすぐさまそれに駆け寄った。一体なにが入っているのだろうという好奇心が抑えきれなかった。だが宝箱には重厚に鍵がかかっている。いくら盗賊でもこの鍵を開けるためにはあらかじめ準備が要る。

「なんだ、これ。鍵がかかってるじゃねえか」

盗賊が思わず毒づくと、少年が何かを取りだした。

「僕、鍵なら開けられますよ」

「お前、さっきからなんなんだ?」

盗賊の言葉に少年が笑う。手には金色の鍵。

「僕はエイル。もともとはこの国の王子でした。でも目がこんなでしょう?ずっと地下に閉じ込められてたんです。ずっと見張りは立っているし、じわじわ殺されそうになって困りました」

確かに彼は痩せている。きっと最低限の食事しか与えてもらえなかったんだろうと推察できた。盗賊は少年を見つめた。

「そんなお前がなんで俺に宝のありかを伝える?」

「あなたがすごく必死に見えたから」

「はっ、お前に俺の何が分かる?」

「そりゃあ分かりませんけど、僕を連れて行くといいことがあるかなっていうのは分かります」

「はあ?」

エイルの言葉の真意が測れない。盗賊はどういうことかと彼の言葉を待った。

「実は僕、ユニーク魔法が使えるんです。その魔法でどんな鍵でも開けられます」

「なんだそれ?」

盗賊は思わずぽかん、としてしまった。現代になるにつれて鍵の仕組みはどんどん複雑になり、さすがの盗賊の技術をもってしても開けられないまま諦めるということが多くなってきていた。エイルの言葉が確かであれば、これから鍵の心配をする必要がなくなる。

「それは本当なのか?」

生き延びるための口上かもしれないと、盗賊は油断しない。だが少年は鍵を鍵穴に差し込む。そして回した。かちりと軽い音がする。盗賊はそれに更に驚いてしまった。この鍵はロックが三重に掛かるようになっているもので、本物の鍵以外で開けるのはほとんど無理である。だが、エイルがたまたまこの宝箱の鍵をもっていただけかもしれないと盗賊はエイルを信じなかった。エイルのユニーク魔法が真実であるか立証するには、他の鍵も開けられるかを確認する必要がある。盗賊はそれを心に刻みこんで、宝箱の蓋を開けた。中には沢山の財宝が詰まっている。盗賊はそれらを袋に入れた。さすがにすべては運びきれないので、、なるべく価値の髙そうなものを選ぶ。二人が城を出ると、すでに明け方だった。

「その宝を売ってお金にするんですね」

明るい中で改めてエイルを見ると左目の傷が痛々しい。盗賊はふと思い出していた。妹のことを。幼い命は簡単に散ってしまった。一緒にいられたのは本当にわずかな時間だった。

「あの、あなたのことはなんて呼べば?」

エイルが困ったように盗賊を見つめてくる。

「俺は盗賊だ」

「とう・・・ぞくさん・・」

「エイル、俺は誰も信じない。もちろんお前のことも」

「盗賊さんがそうしたいなら」

エイルがにっこり笑った。調子が狂うと盗賊は内心で舌打ちした。厄介なものを引き寄せてしまったかもしれないが、殺すことならいつでもできる。盗賊は気を取り直して、街に向かった。街とはいっても人などほとんどいない。建物はすでに腐敗し、風や雨によってすぐに崩れる危険性がある。ここは食料や僅かな金のやり取りをするだけの簡単な市場だ。盗賊はいつもの店に入って行った。宝飾品を買ってくれるのはこの辺りではもうここだけだ。

「また来たのかい」

店主はやせこけた顔色の悪い男だ。コロニーに入ろうと思えば彼はいつでも行けるはずなのに、この星から離れるつもりはないらしい。いつものように査定をしてもらい、金を受け取る。その間に少しだけ男と世間話をする。今日はエイルがいたのでいつもより賑やかだった。

「エイル、お前はやたらぺらぺら喋るな」

「だって、人と話すの久しぶりだし」

盗賊は思わずため息を吐いていた。エイルは自分のような人間となれ合ってはいけないのだ。それが分かるが、あえてエイルには言わない。彼がそばにいると世界が明るいと思ってしまったので余計だ。

「盗賊さん、お腹空きません?」

エイルが指さしたのは炊き出しの列だった。このあたりでこうして炊き出しを頻繁に行っている企業がいくつかある。くだらない自社アピールだと盗賊は一度も並んだことがない。だがエイルは今にも倒れてしまいそうな顔色をしていた。腹が満たされれば少しはましになるかもしれない。盗賊は誰かに借りを作るのは嫌だった。先程の宝はエイルがいたから手に入ったのだ。今度は自分が折れる方だと心を決める。

「並べばいいんだろう」

盗賊が面白くなさそうな顔でそう言うとエイルは歓声を上げた。たったこんなことでエイルはこんなに喜んでくれるのかと盗賊は驚きを隠せなかった。エイルの人生は暗く、辛いものだったのかもしれない。自分とさほど変わらなかったのかもしれない。そこまで考えて盗賊は考えを隅に押しやった。自分が誰かを同情するなどらしくない。もしそうしたら自分すら可哀想だと認めてしまうことになる。

それだけは絶対に嫌だった。いよいよ盗賊たちの番になる。笑顔の女性から料理の入ったプラスチックの器とスプーンを受け取った。久しぶりに温かい食べ物が食べられると思うと嬉しいが、それを顔に出してはエイルの前で恰好がつかない。盗賊は道の隅に座り、食べ始めた。味が付いているものを食べたのも久しぶりだ。

「美味しいですね」

エイルももりもり食べている。炊き出しの後、大きな弁当ももらった。至れり尽くせりだと盗賊は鼻で笑った。金持ちのすることは時折理解できない。人を助けるのは心だと言うが、結局最後は金が全てだ。金さえあれば人生などどうにでもなる。盗賊はいつからかそう信じ込んでいた。エイルはどう思ってるんだろう。ふと、そんな好奇心が湧いたが聞かなかった。エイルにこれ以上距離を縮められるのはなんだか嫌だった。自分とエイルはただ偶然出会っただけで、すぐに離れていくものだ。必要以上のことを知る必要などない。

「盗賊さん、次はどこの国に行くんですか?」

「ここから北にある国だ」

「僕のこと放っておかないんですね?」

「お前が連れてけって言ったんだろうが」

「まあそうなんですけど」

エイルがあははと笑っている。笑うという感情すら盗賊にはなくなっていた。とにかく生きるので必死だった。毎日、気温の変化が激しい土地に合わせて生活するのは、ほぼ不可能である。地球の自然環境はそれだけ破壊されているということだ。盗賊は幼い頃から喘息を患っていた。まだ程度が軽いからよかったものの、発作が起きると収まるまでずっと苦しい思いをしなくてはならない。薬など当然持っているはずがなく、せき込んでせっかく食べたものを全て戻してしまうのなんてざらだった。

「盗賊さん、美味しかったですね」

エイルが盗賊の器も片付けてくれた。

「明るいうちに行きましょうか」

エイルは張り切っているようだ。なんでだろうと盗賊は考えたが分からなかった。

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