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梅の香りに包まれて(オリジナルBLSS)一部有料

 

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梅の香りに包まれて

1・「いただきます」

「いただきまーす」

まだまだ肌寒い二月半ばのこと。俺たちは兵頭(ひょうどう)さんと佐那(さな)川(かわ)さんの送迎会を行っている。送迎会と言っても彼等とは、会社の付き合いではない。同じシェアハウスに住んでいるという関係だ。同性で、年齢も同じくらい。お互い仕事の辛いことを愚痴り合ったり、一緒にキャンプに出掛けたり、お酒を飲んだり。友達より、もう少し親密な関係。俺はてっきりそれが永遠に続くのだと勝手に思い込んでいた。そんなはずがないのに。兵頭さんも佐那川さんもお付き合いをしている女性がいて、同棲することが決まったらしい。二人共かっこいいし、優しいから、きっとそのまま結婚っていう形になるんだろう。本当ならおめでたいことだ。でも俺はそれを心から喜べない。もう大人になって随分経つのに、仲のいい人と少し距離が空くというだけで、こんなに寂しくてつまらない気持ちになるのかと思っている自分にびっくりだ。今更、俺はなにを言っているんだと自分に呆れる。

「太助くん、お鍋美味しいよ」

佐那川さんに優しく微笑まれながら言われて、俺は鼻の奥がツンと痛んだ。泣かないって決めていたのに無理そうだ。学校の卒業式だってもっと平気だった。

「太助、永遠に別れるんじゃないんだから」

兵頭さんが呆れたように言う。そう、その通りだ。二人共、割と近辺に住むことになりそうだと言っていた。ここから会社が近いんだから当たり前だ。でも寂しい。どうしよう。

「太助、ほら、泣いてばかりいないで、鍋を食べろ」

幼馴染の弥一郎が取り皿に寄せ鍋をこんもり盛ってくれた。彼とは幼い頃からずっと一緒だ。一緒にいすぎて、いつ知り合ったのか全然思い出せない。弥一郎はすごくまじめできちんとした人だ。俺は彼が密かに好きだったりする。そのことを佐那川さんと兵頭さんは知ってくれている。告白すればいいのにって二人は何度も背中を押してくれた。その度にしようとして出来なかったけど。

「なあ弥一郎、太助を頼むぞ」

兵頭さんが弥一郎を見つめる。弥一郎は笑って頷いた。

「大丈夫。太助はしっかりしてる子だよ」

そう弥一郎が言ってくれて俺としてはすごく嬉しい。

「それにしてもここの生活は楽しかったなあ」

佐那川さんがしみじみと言って、兵頭さんが頷いている。やばい、限界だ。俺は慌てて立ち上がって中庭に出た。寂しすぎる。二月の夜はまだすごく寒い。でもその冷たさのおかげで涙は引っ込んだ。

俺たちの住むこの平屋の中庭には梅の木がどんと一本生えている。樹齢は軽く百年を超えているだろうか。この梅の木は普通じゃない。季節に関係なく梅の花が狂い咲いているのだ。俺の実家は植木屋をやっている。俺もその家業を少しだけど手伝っているから、自然と梅の木の面倒は俺が見るようになった。この梅はずっと咲いていて疲れないのかな。俺はそう思って梅によく話しかけている。そっと幹に触ると応えてくれているような感触にホッとした。

「太助くん、寂しいのは君だけじゃないよ」

いつの間にかやってきた佐那川さんに優しくそう言われて俺は振り返った。涙がぽろっとこぼれてしまって慌てて拭う。

「太助、俺たちはずっと友達だ」

兵頭さんがそう言ってくれて嬉しい。俺はもう一度幹に触れた。そうだ、いつまで泣いているんだ俺は。二人を安心させて送り出さなくちゃいけないんだ。それに俺は一人になったわけじゃない。でも弥一郎にも彼女がいる。独り身は俺だけだ。でも、そんなことを考えてたって時は止められない。俺は頷いて家の中に戻った。

***

「太助、今日の夜空いてるか?」

それから一週間が経過している。佐那川さんと兵頭さんは嘘みたいにこの家を出て行ってしまった。二人の痕跡なんて、もうどこにもない。残ったのは俺たち二人だけだ。やっぱり寂しくて時々ぼうっとしてしまう。でもこうして弥一郎に誘ってもらえるとは思っていなかったから、つい胸がドキッとしてしまう。俺は一体、何を期待してるんだ。でも、弥一郎の言葉をはかっていても仕方ないか。

「うん。空いてる」

「良いバーを見つけたんだ。一緒に行こう」

「いいの?」

「なんでだ?」

弥一郎が首を傾げてきて俺は困った。でも正直に話した方がいいだろう。頭のいい彼のことだ。俺の考えることなんかすぐに分かってしまうに違いない。

「だって弥一郎、彼女さんいるし、俺じゃなくてその人と行った方がよくない?」

弥一郎がああと頷く。

「怜花とはだいぶ前に別れた。今はフリーだ。心配するな」

「ええ?なんで別れたの?」

「あいつ、わがままでさ」

そんなこと弥一郎から聞いたことない。ずっと我慢していたんだろうか。だとしたら悲しいな。でもそれでなんで俺をバーに誘うの?同じ男で気心が知れてるから?まあ普通に考えてそうなんだろうな。だから俺は何を期待してるんだ。

「どうする?」

「行くよ、行く」

俺は慌てて答えていた。誰かと過ごす予定があることがこんなに嬉しいなんて。そういえばお酒も久しく飲んでいないかもしれない。最近は仕事が忙しくて帰ってきてからもあまりゆっくり出来なかったからなあ。

「太助、お前、街路樹の手入れをしているのか?」

「うん、ほら、あの子たちもうお年寄りだし枝を少し切ったんだ。ちょっと道路の外に張り出してきていたからね」

「太助は本当に植物が好きなんだな」

「うん」

俺が笑って頷くと弥一郎に見つめられた。なんだか視線が熱いのは俺の気のせいだろうか。やれやれ。とりあえずお弁当作ろう。

「太助、俺の分も頼めるか?」

「え?いいけど、お昼誘われない?」

「最近やたら新しい店に連れて行かれて、よく分からないものを食わされる」

「なにそれー」

あははと笑っていたら弥一郎も笑った。

「確か映えがどう、とか言っていたぞ」

「その子、女の子でしょ?」

「ああ、いつも五、六人で食べに行くからな」

俺はそれに何故かほっとしてしまった。その子と、二人きりじゃないんだって思ったからだ。弥一郎はとにかくモテるもんなあ。

「弥一郎の会社は若者だらけでいいね」

「お前が跡取りなんだから安心じゃないか」

「俺の代はそれでいいけど、その次がねえ」

「確かにそうだなあ」

俺は玉子焼きを焼いて包丁で四等分にした。これで、あとは出来合いのミートボールを入れて完成だ。昨日、鶏のひき肉でミニハンバーグを作ったからそれも詰める。全体的に茶色い弁当になったけどたまにはそれでよし。

「お、飯が進みそうだな」

「弥一郎の分はこっちね」

「ありがとう。じゃ、先に出るな」

「うん。行ってらっしゃい」

俺は流しの洗い物を片付けて出かける仕度を済ませた。

「行ってくるね」

俺は梅の木に声を掛けて出かけた。

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